地域の安全を守る仕事を支える業務用無線機「VP8000」

消防・警察向け業務用無線機のフラッグシップモデル

「VP8000」は、JVCケンウッドのグループ会社であるEF Johnson Technologies, Inc(所在地:アメリカ)が北米にて販売している業務用ポータブル無線機です。1939年より同社が消防や警察などのパブリックセーフティ(公共安全)市場向けに展開している「Viking」シリーズのフラッグシップモデルであり、JVCケンウッド・デザインは先行開発におけるデザインリサーチおよびプロダクトデザインを手がけました。

ケンウッド製のトランシーバー3機種。黒と緑の大型モデル2台と、右側に小型の黒いモデル1台。

過酷な環境下での確実な操作性を追求

黄色いヘルメットとサングラスを着用し、無線機を持つ消防士。背景には消防車と他の消防士が見える。

消防・警察向けの業務用無線機の開発においては、アメリカ国防総省が定める規格「MIL スペック」の基準を満たす耐久性・防水性・防塵性が求められます。本機の開発においては、同基準を満たすだけではなく、さらに厳しい独自の基準を設けた上で素材を選定し、過酷な環境下で使用されることを想定したデザイン上の工夫が随所に凝らされています。

火災現場においては、安定した通信と確実な操作性が、消防士と救助者の安全に直結します。VP8000では、機体の落下を防ぐために、手に持った時のグリップ性を高める形状として、上方向に広がる逆四角錐のフレアフォルムを採用。以前よりも天面が広くなり、ディスプレイが拡大したことでより視認性が高まりました。天面の周辺にはガード形状を施すことで、落下の際の衝撃からディスプレイと操作ボタンを保護し、誤作動を防止しています。

また、消防士は火災現場で分厚いグローブを装着しており、警察官は腰に多くの装備を装着しているため、これらの装備をつけたままでも確実に操作ができるように、天面の操作つまみをやや外側に傾け、非常時に使用するオレンジのボタンを大きく配置しました。消防向けモデルのグリーンのカラーリングには、火災現場における視認性の高さに配慮した色を採用しています。

ユーザビリティを追求するためのデザインリサーチ

本プロジェクトでは、具体的な要素技術開発に取り組む前に、インタビューなどを取り入れた約1年間の先行開発を実施し、そこで得られたフィードバックをもとにデザインに取り組みました。

業務用無線機のデザインでは、現場への理解を深めるためのリサーチを重視しており、過去のモデルでは、メインターゲットである北米にデザイナーが赴き、消防士・警察官へのヒアリングに加えて、現地の消防署が実施している消防訓練への参加などの活動を行いました。それらの知見は、フラッグシップモデルである本機のデザインにも活かされています。

消火活動に臨む消防士は、ヘルメットや防火衣、酸素ボンベなど、合計で数十キロにも上る装備を身につけます。消防訓練では、それらの装備をデザイナーが身につけ、ほふく前進や壁を乗り越える練習など、できるだけ実地に近い体験を通して、その後のモックアップ制作のためのインサイトが得られるデザインリサーチを実践しました。

本機のデザインプロセスにおいては、火災現場で着用されているグローブを取り寄せ、筐体のグリップ性やつまみの操作のしやすさ、ボタンの押しやすさなどの検証を重ねました。制作したモックアップは現地の方々に触れていただき、具体的なフィードバックを一つひとつデザインに反映させています。

地域の安全を守るプロフェッショナルの仕事を支えるデザイン

2005年より、JVCケンウッド・デザインでは業務用の無線機をデザインする上で、人間工学の視点はもちろん、プロフェッショナルが使用する機器として信頼性や堅牢性に加え、JVCケンウッド・デザインが重視するエモーショナル・デザインの考え方も取り入れています。プロフェッショナルの方々が使用する道具としての佇まいや、地域の暮らしの安全を守る消防士・警察官の方々が、本機を身につけることで仕事に誇りを持つことができるデザインを目指しました。

「スピーカーグリル」の造形によるプロダクトアイデンティティの構築

ケンウッド製のVP5000モデルの上部。ダイヤル、ボタン、アンテナ、小さなディスプレイが見える。

「Viking」は、JVCケンウッドのグループ会社・EF Johnson Technologies, Inc(所在地:アメリカ)が、1939年より北米で展開している業務用無線機のシリーズです。2014年の同社のグループ化以来、JVCケンウッド・デザインは本シリーズのデザインを手がけてきました。

もともとKENWOODは無線機を祖業とするブランドであり、これまでにアマチュアおよびプロフェッショナル向けのいずれの製品においても、銘機と呼ばれる製品をリリースしてきました。なかでも、過酷な状況でも確実に伝わる音質は、ユーザーの方々からの一定の支持を得ています。

業務用の無線機では、「スピーカーグリル」の造形に一貫性を持たせることで、シリーズを通じたプロダクト・アイデンティティを構築しています。この特徴的なスピーカーグリルのデザインは、機能面においては、雨天や水没の際や、火災現場で音が出にくくなる状況に配慮した形状であると同時に、競合製品とは一線を画すデザインアイコンとして、製品の信頼性と安全性を視覚的にも表現しています。

Team

Toyohito Yamamoto
  • Product Design
Yu Sakata
  • UX Design
  • Research
Miki Oikawa
  • UX Design
  • Research

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