R&Dとデザインをかけ合わせ、10年先の未来に向けた対話のきっかけをつくる

R&Dとデザインをかけ合わせ、10年先の未来に向けた対話のきっかけをつくる

2021年にJVCケンウッドグループが発表した技術開発戦略「R&D²(Research, Development & Design)」のもと、近年JVCケンウッド・デザインでは、グループが培ってきた通信・映像・音響の技術にデザインの視点をかけ合わせた研究・技術開発に取り組んでいます。
この活動の要となるのが、「10年先の未来を見据えた新たな価値の創造」をミッションに掲げる「未来創造研究所」です。JVCケンウッド・デザインのデザイナーが、同研究所に所属するリサーチャーおよびエンジニアとの共創に取り組みながら、未来に向けた議論のきっかけとなるリサーチやプロトタイピングを実践しています。
JVCケンウッド・デザイン(山本・園部)と未来創造研究所(岩城・高橋)の4人のメンバーが、これまで取り組んできたプロジェクトを振り返りながら、今後の展望について語り合いました。

10年後の世界で暮らす“未来人”を想像する

JVCケンウッドグループの技術開発戦略「R&D²」では、「人と時空をつないで未来を創造する」というメッセージを掲げています。まずはこの言葉にどのような思いが込められているかを教えてください。

岩城 JVCケンウッドはこれまでに通信・映像・音響の3つの技術の社会実装を通して、世の中に「感動と安心」を提供してきましたが、たとえば警察・消防分野で使用されているケンウッドの無線機の技術は、現場の音声を司令室に届けることで、時間と空間をつなぐためのものだと言うことができます。R&D²では、AIの登場によってものすごいスピードで変化していくこれからの未来の社会に向けて、私たちは自分たちの技術をどのようにアップデートできるのかを考えていくために、このメッセージを掲げています。 

未来創造研究所は「10年先の未来を見据えた新たな価値の創造」をミッションとしていますが、具体的にはどのような活動をしているのでしょうか?

岩城 どんな未来を思い描いたとしても、10年後の技術の状態についてきちんと見極めないことにはフィクションになってしまうので、未来創造研究所ではまず、これからの10年で技術がどのように発展していくのかを予測する「技術ロードマップ」を制作するようにしています。

未来に向けて世の中がどのように変わっていくのか、それらを正確に予測することはとても難しいのですが、AIやデジタルツイン、量子コンピューティングといった現在の技術が、これからの10年間でどのように進化していくのかを予測することは、しっかりとしたリサーチを実施することで、ある程度の見通しを立てることはできます。一方で、技術ロードマップだけでは具体的にどのように技術が社会実装されているのかまでは予測できないので、10年後の世界で暮らす“未来人”の価値観や行動様式について考えるために、「未来ペルソナ」をあわせて制作しています。

山本 これまでもJVCケンウッド・デザインでは、未来の体験をプロトタイピングする先端技術のR&D活動をおこなってきましたが、そこではひとりの人物のペルソナを設定していました。未来ペルソナでは、複数人のペルソナをつくることで、10年後の未来を過ごす人々が持つ価値観や行動様式がどのように生まれてくるのか、バックグラウンドとなる技術や社会の変化を含めて考えていきます。2025年には社会の最小単位のひとつである「家族」のペルソナをつくり、2040年の生活環境について想像したものをまとめました。

未来ペルソナ

園部 たとえば未来の小学生の生活におけるVR技術について想像してみると、勉強に使うこともあれば、遠くに暮らすおじいちゃんやおばあちゃんとのコミュニケーションのために使うこともあるかもしれない。未来ペルソナでは、関係性に着目しながらそれぞれのペルソナをまとめていくので、未来の技術が使用されているシーンをより具体的に想像できるようになります。ほかにも、自動運転の普及によって、通学や送迎のあり方が変わっているシーンなど、さまざまな予測を立てていきました。

山本 ひとりの人物、ひとつの技術だけを扱っているとどうしても直線的な考え方になってしまいますが、価値観や行動様式は関係性によって構築されていきますし、わたしたちはさまざまな技術が複合された社会を生きているので、多様な視点を混ぜ合わせながら未来を想像していくのが重要なのではないかと感じています。複数のペルソナが持つそれぞれのニーズや欲求と、それらをかなえるためのテクノロジーやサービスをペルソナの周囲に配置することで、他の人々との関係性もより高い解像度で見えてきます。

Shunsuke Yamamoto

特に印象的だった予測はありましたか?

園部 この未来ペルソナでは、すでに子育てがひと段落したお母さんのペルソナについて考えていて、子育ての経験を活かし、余暇の時間に子どもたちと接することができるカフェを利用する場面を描いています。パートナーや子どもを持たない選択が広がる中で、子どもと関わる機会を持ちたいと考える人にとっての新たな接点となる場が生まれていくかもしれません。

デジタルやテクノロジーとはあまり関わりのない予測ではあるものの、こういった人間の変わらない欲求やニーズにまつわる未来のストーリーが想像できてくると、ペルソナで描いた人々がより生き生きとしているような感覚がありますし、そういった想像を巡らせることがこの活動においてはとても重要なのではないかと感じました。

岩城 未来の徘徊問題についての予測もおもしろかったですね。今後デジタル空間において五感を活用できるようになると、デジタル空間上で思い出の街を徘徊するようになるかもしれない。徘徊している人は昔の記憶を遡っているという話もあるので、デジタル空間を徘徊することでかつての記憶を蘇らせるなど、未来のウェルビーイングにつながっていく可能性もあるかもしれません。

園部 デジタル空間だけではなく、街全体にセンサーが張り巡らされることで、徘徊者の見守り機能が実装されているかもしれないですね。ほかにも、高齢者向けのアルバイトを募集する求人サイトや、シニア向けのスポーツが盛んになるのではないかという予測も立てていました。

Risa Sonobe


未来について考えていくための土台をつくる

街中にセンサーが実装された未来は、徘徊者の見守りの実現につながるという見方もあれば、一方で監視社会が進むのではないかと考えることもできると思います。そういったテクノロジーによるネガティブな変化の可能性についてはどのように捉えていますか?

園部 未来ペルソナとあわせて制作している「未来シナリオ」では、技術の発展によって社会がどのように変化しているのかを、よりフラットな視点でまとめています。そこでは監視社会が加速する未来や、能力が可視化されてしまう社会についても描いていて、制作を進める上でも、ハッピーなものだけではなく、アンハッピーなストーリーについても議論しているんです。

山本 未来シナリオでは、自分たちの事業に関連がある領域の未来がどのように立ち現れていくのかを捉えるために、KJ法などを使ってリサーチで集めた未来の兆しとなる情報を括り直していきます。さきほどお話しした、他者の子供と接する体験や高齢者のバーチャル徘徊の予測は、確かに倫理的にどうなのだろうという視点はあると思いますが、未来シナリオでは「こんなことはありえないだろう」とつい否定してしまいそうなアイデアも排除しないところに大きな特徴があります。同じく制作している「未来プロトタイプ」も、未来のための対話を生むツールとして活用しています。 

岩城 頭の中だけで未来について考えるとどうしても見誤ってしまうこともあるため、未来プロトタイプでは、未来ペルソナから得られた気づきをもとに、未来の暮らしを体感できるようなPoCを実施しています。

たとえば「パーソナル危険予報」という未来プロトタイプでは、街中にセンサーが張り巡らされるようになれば、少し先の未来についてAIが推論する世界になるのではないかという予測をもとに制作したものです。近隣でスクーターに乗った男性によるひったくりの被害があった場合、危険な動きを検知したセンサーが、身に危険が降りかかる可能性のある人に情報を伝えることができるのではないかと、未来のワンシーンを表現する映像を作成しました。

「パーソナル危険予報」イメージ・ディスカッションの様子

これはJVCケンウッド・デザインが年に一度開催している「DEISGN MIRAI」にて発表したんですが、展示映像をご覧になった方からは、「急に通知が届いても、咄嗟にどう動いていいのかわからないのでは?」「大量に通知が飛んでくるようになり、ただ単に世界が怖く感じるだけになってしまいそう」など、さまざまな意見をいただきました。そういった声をもとにさらに議論を交わしていくことで、次の活動につながる発想が生まれていくのではないかと考えています。

社内展示会「DESIGN MIRAI 2025」を開催 | NEWS |

園部 活動の目的や事業性について問われることもありますが、制作物を起点に様々な人を巻き込み、議論を生み出すことが重要なプロセスであると考えています。多くの人に受け入れられるものをつくることがゴールではなく、未来人にとっての価値を考えていくための土台をつくることを目標としています。

このように、短期間で多くのPoCを実施することもあれば、じっくりとつくり込むこともあります。社会背景や未来ペルソナから描き出した、「自律的に生活するアバターに悩みを相談する」というストーリーをもとに、オリジナルの漫画と体験ブースを制作したプロトタイプ「ジブン会議」では、社内展示を通して、多くの方に未来の暮らしを部分的に体験してもらいました。

「ジブン会議」体験ブース・ストーリーを描いた漫画

高橋 これは2023年に発表したものです。当時はAIが広く普及し始めた一方で、コロナ禍からの流れもあって若い世代を中心にメンタルヘルスの問題が社会課題として認識されていました。そういった悩みを抱え込みがちな人は、自分と近しい価値観を持つ人からの励ましや肯定がほしいのではないかと考えたんですね。その時に、もしかしたらAIに悩みごとを相談し、AIが自分の欲しい言葉をかけて励ましてくれるような未来が訪れるのではないかという仮説を立てました。

このプロトタイプに対してはかなり意見が割れていて、こんな未来が訪れるかもしれないと感じる人もいれば、「自分は絶対にAIなんかには相談はしない」という人もいました。ところが実際には、誰もがChatGPTに相談するような時代がすぐに来てしまった。2023年の当時にしては、かなり高い解像度で未来を想像することができていたプロトタイプだったのではないかと感じています。

Manamu Takahashi

他人事ではない未来を共に創造するために

研究所のメンバーとして10年先の未来を予測する活動を続けることで、グループの事業やご自身の視点にどのような変化が生まれていると思いますか?

岩城 未来創造研究所のリサーチ内容をきっかけに、グループ内のさまざまな部署からの相談をいただくことが増えてきており、現在共同で検討を進めているプロジェクトもいくつかあります。他の事業部のメンバーからは、発想を切り替えるきっかけになっているという意見をもらっていますし、これからさらに実績を積み重ねていきたいですね。いかに部署を跨いだつながりをつくっていけるかどうかは今後さらに重要になっていくと思うので、そういった役割や機能を担う組織にしていければと考えています。

また、私はこれまで新規事業開発を担当していたため、未来について考えることはそこまで多くはなかったんですが、この活動を通じて概念としてしか捉えられていなかった未来を体感する機会ができていますし、発想がどんどん広がっていっている感覚があります。私たちはつい未来を他人事のように考えてしまいますし、テクノロジーの発展によって未来社会がつくられていくように感じてしまいがちですが、実際には人間と社会が徐々に変化していくことで未来は立ち上がっていくものです。未来創造研究所では、まだ生まれていない人たちが暮らす遠い未来を想像するのではなく、あくまで自分たちがまだ生きているであろう10年先の未来を見据えているので、未来の暮らしを手触りのあるものとして感じることができていると思います。

高橋 日々のリサーチや未来洞察に、自分事として置き換えやすい未来ペルソナを掛け合わせることで、未来の解像度が更に上がったように思います。最近は業務だけではなく、普段の生活においても目の付けどころが変わってきている気がしますね。僕は学生時代に演劇をやっていたこともあって、先日初音ミクと中村獅童さんら歌舞伎役者が共演する『超歌舞伎』というものを観に行ったんですが、そこで得られた気づきや技術情報を研究所内に共有するなど、仕事と趣味の境目がなくなっているような感覚もあります。

園部 未来創造研究所のフレームワークを、別のプロジェクトのワークショップなどで活用してもらうことも増えていますね。未来に関するプロジェクトでなくても、研究所のリサーチは新しい提案に活かすことができると思うので、そういった場面でうまく連携していけると、研究所の活動もより幅も広がっていくのではないかと考えています。

また、2025年のCEATECへの出展をきっかけに他社との共創活動もスタートしており、定期的にワークショップを実施しながら、両社が培ってきた知見を発揮し合うための共同プロジェクトを進めています。

岩城 そういったプロジェクトを進める中で感じているのは、自社だけではなく、他社との共創によって新たな価値を生み出したいと考えている企業が増えているということです。未来に関する展示をしているとさまざまな企業からお声がけいただくことも多いですし、展示会場でそういった話をしていたら、「おもしろそうなので話に混ぜてもらえませんか?」と声をかけてくださった企業の方もいらっしゃいました。2025年からは、企業だけではなく、大学などの教育機関との共創に取り組む産学連携も活性化させており、今後さらに力を入れていきたいと思っています。

近年さまざまな企業が未来洞察に取り組んでいる中で、未来創造研究所として今後どのように独自性を出していきたいと考えていますか?

岩城 JVCケンウッドのDNAは長らくヒューマンインターフェースをつくってきたところにあるので、未来に向けてさらにその領域を広げていく活動に取り組むことで、結果的に研究所としての独自性が生まれるのではないかと思います。今後AIや次世代コンピューティングなどの分野はビッグテックを中心に展開されていくと思いますが、物理空間においてはわれわれのようにハードウェアを手がけてきたメーカーならではの特徴を打ち出していけるはずです。グループのミッションである「感動と安心」を届けることを目指しながら、通信・映像・音響の技術を組み合わせることでどのような未来を描いていけるのか、研究所の活動を通して考えていきたいと思います。

Akihide Iwaki

最後に、未来創造研究所のメンバーとして今後取り組んでいきたいことをそれぞれお聞かせください。

山本 現在さまざまな部署とのコラボレーションがはじまっているので、これまで関わりのなかったグループのメンバーとの共創にも今後取り組んでいきたいですね。そのためにも、未来プロトタイプをはじめとするこれまでの研究所の活動を、より多くの人に見ていただくための発信活動を続けていきたいと思っています。

園部 社内の別部門の方からは、未来洞察の活動に共感しつつも、取り組むための時間やリソースが不足しているという意見をもらうことがあります。私たちはこういった検証活動に取り組めている分、得られた知見を社内外に共有し、活用の機会を広げていきたいと考えています。今後は未来プロトタイプをもっと外部に向けても発表していくことで、社外の方々とのコミュニケーションの機会もつくっていきたいですし、グループの他の部署とのつながりをつくるための活動にも取り組んでいきたいと思います。

高橋 研究所の活動を通して、リサーチャーやエンジニアのコミュニティだけでなかなかできない経験をさせてもらっているので、日を重ねるごとに自由な視点や奇抜な発想力がどんどん身に付けられているのを感じます。

さきほどお話した「ジブン会議」は、10年先を見据えた予測としてはかなり早くその時代が来てしまいましたが、AIがこちらに寄り添い過ぎることが不自然に感じられて、相談しなくなったという人も新たに出てきています。今後はそういった部分までさらに踏み込んだ洞察や未来予測ができるようなリサーチャーになりたいですね。

岩城 社内外のさまざまな人を巻き込みながら、一緒に未来の姿を導き出していけるようなプロジェクトに取り組んでいくことは、JVCケンウッドグループ全体の活性化にもつながるので、未来についての活発なディスカッションが生まれる企業になるための道筋をつくっていきたいと思います。

また、現在は仮説検証が未来創造研究所の活動の中心ではありますが、その積み重ねによって生まれた気づきをもとに、未来の事業の布石となるような知的財産の創出にも取り組んでいます。特許の取得を目指すことは、未来の暮らしにおいてどのような技術が使われているのかを考える活動との相性もいいですし、すでにそれなりの数の取得も実現しているので、今後も研究所の活動のひとつの核として推進することで、事業貢献にもつなげていきたいと考えています。

Profile

Shunsuke Yamamoto
  • Vision Design
Risa Sonobe
  • Vision Design
Akihide Iwaki
  • JVCKENWOOD
  • Industrial Research
  • Senior Manager
Manamu Takahashi
  • JVCKENWOOD
  • Industrial Research

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