2028年10月の経営統合20周年に向けてスタートした、JVCケンウッドの周年記念活動「JVCKENWOOD Anniversary」。この活動に先立ち、JVCケンウッド・デザインでは2023年7月 より、歴代の製品のデジタルアーカイブを作成するプロジェクトが進行しています。1927年創業の日本ビクターと、1946年創業のケンウッド(旧:春日無線電機商会)の製品をはじめ、JVCケンウッドとして統合された2008年から現在にいたるまで、2,500点以上にものぼる製品情報が一覧できるデジタルアーカイブの作成は、ブランドの歴史に触れると同時に、未来へと継承することにもつながります。本記事では、プロジェクトに関わった3人のメンバー、木村賢二、木村英幸、緑川浩司が、本プロジェクトのはじまりからデジタルアーカイブの制作プロセス、さらに過去の製品に触れる中で再発見した「ブランドらしさ」について語り合った鼎談の様子を、前後編に分けてお届けします。
2,500点以上の製品の歴史をデジタルアーカイブに
デジタルアーカイブのプロジェクトがはじまった経緯をお聞かせください。
木村(英) きっかけとなったのは、久里浜拠点の再編でした。これまで久里浜には、膨大な数の歴代製品が保管されていたのですが、そのすべてを実物として保存し続けることは現実的に難しく、一部は本社アーカイブへ移管し、博物館への寄贈が決まったものの、なかには廃棄せざるを得ないものもあったんです。このままでは、長年にわたり培われてきたデザインや技術、ブランドの歴史を伝える貴重な資産が分散・消失してしまう。そんな危機感から、実物が失われる前に製品をデジタルデータとして記録・保存し、将来にわたって活用・継承できるデジタルアーカイブを構築することを目的に、本プロジェクトを開始しました。同時に、この機会を単なる「整理」ではなく、「未来への継承」と捉えることにしたんです。
緑川 デザイン会社である私たちにとって、こうした資料はブランドの歴史や思想を理解し、クリエイティブを実践する上で貴重な資産です。だからこそ可能な限りアーカイブとして保存し、未来へ継承していきたいと考えていました。
私たちが毎年開催している社内展示会「DESIGN MIRAI」では、未来からのバックキャスティングの視点でブランドの現在を捉え直すデザイン提案活動を続けています。一方で、デザインアーカイブは、過去から現在へと続く軌跡をたどりながらブランドを再発見する取り組みであり、いわばフォアキャスティングの実践ではないかと考えています。未来を起点にブランドの可能性を構想することと、これまでの歩みのなかにブランドの本質を見いだすこと。その両方の視点があってこそ、ブランドは持続的に成長できるのではないかと考えます。
私たちは、デジタルアーカイブにそのような意義を持たせ、「未来への継承」のための方法を探っていきました。
木村(英) 2000年以前の製品については新たに撮影をおこない、デジタルアーカイブへの登録を進めていきました。2000年以降の製品は基本的に自社のWebサイトに写真が載っているのでそれらを集約し、近年の製品の場合は社内のCGデザイナーが作成したフルCGの画像を登録しています。
ひとまずベテランのメンバーが引退するまでに、それぞれ担当した製品を登録してもらおうと、入力内容や編集方法についても簡単なマニュアルも制作しました。

Webアプリケーションとして閲覧できるデジタルアーカイブをまとめていくにあたり、どのような視点で構成や資料の整理方法を検討されましたか?
木村(賢) 登録している製品数が2,500点以上もあるので、これだけの資産をどのように見せていくべきなのか、同じグループ会社であるJVCケンウッド・エンジニアリングのメンバーと連携しながら、アーカイブの仕組みとなるシステムを組んでいきました。
木村(英) KENWOOD・Victor・JVCのブランドをJVCケンウッドグループとして統合したのが2008年なので、2000年代以降は1年ごとに製品をまとめ、それ以前は10年単位で区切り、グループのコア技術である通信・音響・映像に関連する製品を見られるようにしています。あくまで3つのブランドを並列に扱いたいという気持ちがあるので、これらの表示順はすぐに変えられるようにしてあり、たとえば海外の方がご覧になるときにはJVCを上に表示させるなど、プレゼンの仕方によって変更できるようにしています。
また、ブランドごとにデザインおよび技術の視点からエポックだと呼べるものや、グッドデザイン賞やiF Design Award、Red Dot Awardといった賞を受賞した製品を登録する「アワード」のカテゴリーも設けています。

製品デザインの歴史におけるエポックをどう選ぶのか
デザインエポック、技術エポックはそれぞれどのような視点で選んでいるのでしょうか?
木村(英) デザインエポックについては、現在選定を進めている段階なんですが、技術エポックに関しては、たとえばVictorの場合、映像プロジェクターの「D-ILA」や「ウッドコーン」のシリーズ、KENWOODの場合はアマチュア無線機のシリーズを3種類展開しているので、それらの歴代の製品を一覧できるように準備しています。
緑川 デザインエポックの選定においては、製品が社会に与えた影響だけでなく、その製品が、その後の社内のクリエイティブやデザインの進化にどのような影響を与えたかという視点も重要だと考えています。たとえ大ヒット商品ではなくても、新たな発想や表現を切り拓いた製品には大きな価値があると思います。
木村(英) 1980年代以前は、デザインエポックと呼べるものが生まれやすかった時代だと思います。いま見てもおもしろい過去の製品はたくさんありますし、素材の選び方をはじめ、当時の環境にどのように製品をマッチングさせるのかなど、デザイナーの考え方がそのまま反映されていたはずなので。スマートフォンの登場以降は、画面の中での差別化が主になってきているので、デザインエポックだと言えるプロダクトは生み出しづらい状況になってきているのではないかと思います。
近年はプロダクトだけではなくサービスのデザインも手がけているので、そういった事例のエポックをどう考えるかという視点もありますね。
木村(英) それは今後さらに重要になっていく視点ですね。たとえば「Forest Notes」や「KooNe」といった事例は、3つのブランドには属さない「Others」として登録しているので、今後はこのカテゴリーも伸びてくるのではないかと思います。
アーカイブを通じた「ブランドらしさ」の再発見
過去の製品を登録する中で新たな発見や気づきはありましたか?
木村(賢) 僕は90年代に日本ビクターに入社したのですが、もともと学生の頃からオーディオが好きで、当時の自分の先輩が担当していた製品ぐらいまでは守備範囲だったものの、それ以前の製品についてはこのプロジェクトを通じてはじめて知るものも多かったですね。なかには「GB-1」のように、一見するとスピーカーだとは思えないような、いま見ても新しさを感じる製品をデザインしていたことには驚きました。

こういった製品を見て頭の中でリンクしたのが、以前「Forest Notes」専用のスピーカーを大学に貸し出した際に学生に言われた言葉で、彼らからするとスピーカーのような見た目をしていない機械から音が出るのが新鮮だったみたいなんですね。その時は、大学の食堂でForest Notesの音を鳴らすためにスピーカーを使ってもらったんですが、普通のスピーカーだと館内放送のように聞こえてしまうものの、Forest Notesのスピーカーを使うと音の感じ方が違ったそうなんです。こうやってブランドの歴史を振り返ってみることで、デバイスとしての新しさやユニークさが感じられる製品を過去にもつくっていたんだなという発見がありました。

木村(英) 自分が発掘しておもしろいなと思ったのが、50年代に日本ビクターがつくっていた「ビクトロン」という電子オルガンで、当時は横浜公園平和野球場(現:横浜スタジアム)の備え付けのオルガンとして、試合の合間に専属の方が生演奏していたらしいです。さらに70年代になると、ライブ専用の「コンサート・ビクトロン」という製品を出しているのですが、複雑で演奏するのが非常に難しい楽器だったようです。当時のビクター音楽産業(現:ビクターエンターテインメント)ではビクトロンの演奏を録音したレコードを出したり、音楽教室をやっていたりしたそうです。もともと自分は日本ビクターのデザイナーとして入社したのですが、そうやってひとつの製品からブランドの歴史を紐解いていくことで、はじめて知れることも多いですね。

緑川 私はケンウッドのデザイナーとして入社したのですが、無線機やオーディオ機器の開発に欠かせない測定器を、ケンウッドの前身である春日無線電機商会の創業初期から自社開発し、多く揃えられていたことを発見し、驚きました。そこからは品質や性能を追求する技術者集団としての姿勢が伺えました。戦後、同業の中小メーカーが数多く存在する中で、トリオ(現・ケンウッド)が存続し、通信、音響機器メーカーとして発展を遂げることができた理由のひとつが、こうした品質と性能を追求するこだわりなのではないかと感じました。

木村(英) これは個人的な解釈と見解ですが、Victorは楽器そのものの音や、コンサートやライブの響きを追及する音作りをしていると思います。過去にピアノやオルガンなどの楽器をつくっていた時代がありますし、インテリア事業を手がけていたこともあるので、木工へのこだわりがあります。木製のキャビネットスピーカーの響きや温かみへのこだわりが、現在のウッドコーンシリーズなどにつながっているのではないでしょうか。KENWOODの場合、コイルなどの電子機器の部品をつくっていたルーツがあるからこそ、”金属感”が製品の特徴となっていると解釈するとわかりやすい定義づけが出来ます。
いまは3つのプロダクトブランドがひとつの会社の中にあるので、それぞれのブランドのデザインにはどのような流れがあり、ブランドらしさがどのように生まれてきたのか、こうやってアーカイブを見ることで、社内の若手メンバーには感じ取ってもらいたいですね。
緑川 JVCケンウッドグループのクリエイティブを担う私たちにとって、VictorとKENWOOD、それぞれのブランドへの理解を深めることは非常に重要です。これらはコーポレートブランドではなくプロダクトブランドであるため、意識的に学び続けなければ、その本質を十分に理解することは容易ではありません。
本アーカイブには、両ブランドが歩んできた歴史や大切にしてきた価値観が数多く収められています。ぜひ全てのデザイナーに活用していただき、ブランドの歴史に触れながら、その想いやDNAを理解し、これからのブランドのあり方や未来について考えるためのツールとして役立ててもらいたいと思います。

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