【デジタルアーカイブ後編】アーカイブにしか残らない挑戦の歴史を、ブランドの未来につなげる

【デジタルアーカイブ後編】アーカイブにしか残らない挑戦の歴史を、ブランドの未来につなげる

1927年創業の日本ビクターと、1946年創業のケンウッド(旧:春日無線電機商会)の製品をはじめ、JVCケンウッドとして統合された2008年から現在にいたるまでの歴代の製品をアーカイブする活動が、2023年7月にスタートしました。2,500点以上にものぼる製品情報が一覧できるデジタルアーカイブの作成は、ブランドの歴史に触れるきっかけとなると同時に、時代のなかで変化してきたデザインの軌跡を知ることにもつながります。本記事では、プロジェクトに関わった3人のメンバーが、本プロジェクトのはじまりからデジタルアーカイブの制作プロセス、さらに過去の製品に触れる中で再発見した「ブランドらしさ」について語り合った鼎談の様子を、前後編に分けてお届けします。

JVCケンウッド 周年記念サイト

テレビ、カーオーディオ、MDコンポ…製品デザインとその時代 

デジタルアーカイブをまとめていくなかで、ブランドの変遷について感じたことはありますか? 
木村(英) 70年代頃まで遡ると、プラスチックのカラーリングやメカトロニクスなどの機構設計に凝っていたものが多く、「もの」としての魅力がある製品が多いですね。アッセンブルにネジが使われているため、いま見ると少し安っぽさを感じるかもしれませんが、逆に現在の技術で製品を再現してみるとどうなるんだろうと想像してしまうほど、アイコニックな魅力やデザインの強さを感じる製品が多いと思います。 

フリフリQ


ほかにも、たとえばヘッドホンやイヤホンはかつてオーディオカテゴリーの中ではサブ的な位置付けとして「アクセサリー」と呼ばれていたんですが、現在に近づくほどむしろ中心になってきているのがわかります。90年代ごろまでは、カラーバリエーションの豊富さと透明なプラスチックケースに入れた「ブリスターパッケージ」のデザインを売りにしていて、当時はお会計の時についでに買ってもらえるように、量販店のレジ横に吊るして売っていましたね。2000年半ば頃からはプラスチックを使わなくなり、環境に配慮した紙のパッケージが中心になりましたが、​その​中でも​グラフィック​表現に​こだわり​、店頭で​魅力的に​見えるように​工夫しています。​ 

ブリスターパッケージ

製品の歴史だけではなく、パッケージデザインの歴史も辿れるのは自社でデザインしてきたからこそですね。 
木村(英) そうですね。私が担当していたJVCのカーオーディオは海外オンリーの展開だったんですが、欧米の販売店ではフロアに製品が山積みにされていて、パッケージデザインを見て買うかどうかを決める人が多かったようです。当時からかなりパッケージデザインに力を入れていたので、展開図や三面図など残っている資料も多く、そういったものは製品とあわせてなるべくアーカイブしておきたいと思っています。 

Hideyuki Kimura

みなさんがデザインされた製品の中で、印象に残っているものはありますか? 
木村(英) 2006年ごろに、テレビとオーディオを組み合わせたシアター製品として「Sophisti」シリーズを担当しました。当時はテレビがブラウン管から薄型のプラズマテレビに移行し、さらに記録媒体がビデオからDVDに変わった時期で、ヨーロッパの家庭環境をイメージしながら、どうすればテレビとオーディオを融合させることができるのか、オーディオとディスプレイのチームが一緒になって開発したものでした。スピーカーキャブネットは木製ですし、スタンドもアルミでつくっていて、現在はここまで外観にお金をかけることはあまりないので、なかなか贅沢な時代ですね。ちなみにこの時にセンタースピーカーとして使用したものが、現在の「KooNe」に採用されています。 

Sophisti


緑川 私が特に印象に残っている仕事は、1998年に担当したMDラジカセ「RAMPAGE MDX-E3」のデザイン開発です。当時、MD(ミニディスク)は据置型ミニコンポ市場で高い人気を獲得していましたが、MDラジカセ市場では各社ともヒット商品を生み出せていませんでした。そうした状況の中、「MDラジカセ市場を拡大する」という事業目標のもと、MDX-E3の開発プロジェクトが立ち上がりました。

市場分析の結果、当時のMDラジカセは、デジタル録音や編集機能を前面に打ち出した若年男性向けの多機能製品が中心で、一部ではミニコンポと競合している状況にありました。市場全体が、MDの新しさである「録音できるデジタルメディア」という機能的価値に注目し、その側面にとらわれているように感じられました。

そこで私たちは、「より幅広い購買層へターゲットを広げること」と、「ラジカセならではの魅力や価値を再定義すること」を開発の柱に据え、まずはターゲットを録音や編集機能にこだわるユーザーから「MDで気軽に音楽を楽しみたい人」へと拡大し、次に、ラジカセならではの強みである「家の中で自由に持ち運べること」に着目し、「良質な音を好きな場所へ持ち運び、自由に楽しめる新しい音楽生活のための再生装置」というコンセプトを策定しました。

RAMPAGE MDX-E3

このコンセプトを象徴するデザイン要素がハンドルです。当時のラジカセは、収納時に本体と一体化して目立たなくなるハンドルが主流でしたが、MDX-E3ではあえてハンドルの存在感を際立たせました。支柱部分には金属素材を採用し、握りやすさを重視したグリップ形状と組み合わせることで質感を高め、「どこでも音楽を楽しめる」というメッセージをデザインとして表現しました。さらに、丸みを帯びたフォルムや親しみやすいつまみのあしらいによって気軽さを表現するとともに、新しい音楽生活への期待感や選ぶ楽しさを提供するため、当時としては珍しかった4色のカラーバリエーションを展開しました。細部に至るまでコンセプトの一貫性を追求したデザインです。

その結果、製品デザインに加え、音質の向上やプロモーション施策との相乗効果もあり、MDX-E3はMDラジカセカテゴリーのトップヒット商品となり、事業目標の達成に貢献しました。市場の常識にとらわれることなく潜在需要を掘り起こし、自社製品の新たなポジションを確立できたことは、KENWOODらしい戦い方を実現した事例であり、私にとって特に印象深く、記憶に残るプロジェクトとなりました。

アーカイブ化するからこそ残るデザインと挑戦の歴史 

木村(英) これは本人が目の前にいるから言うわけではないけれど(笑)、2000年ごろに賢二さんがデザインを担当したJVCの「EL Kameleon」シリーズは、当時としてはかなり斬新なデザインだったと思います。その頃のカーオーディオは、オーディオ機器らしい華やかさを出すために、ボリュームなどのツマミにこだわるものが多かったんですが、賢二さんが担当した製品は電源を消すと真っ黒になって、そこに製品があるのがわからないようにデザインされている。当時のアメリカは車を壊してカーオーディオを盗むような人がいるような時代で、盗難防止のためにわざわざカバーをかける人もたくさんいたので、製品を目立たせるのではなく、むしろ存在感をなくす発想でデザインされています。通電しないと製品自体の魅力がわからないというのは、当時のカーオーディオとしてはかなり画期的でしたし、チャレンジングなデザインが多くの共感を集めて、ヒットにつながりましたよね。 

EL Kameleon KDLX30ogg-on


木村(賢) もともとJVCのカーオーディオは業界の中では後発だったので、売れる製品をつくるというよりも、そういったギミックやビジュアルによってインパクトを出すことでポジショニングすることをねらっていたんだよね。 

他にも、「EXAD」というプレミアムシリーズのフラッグシップモデルをデザインした当時は「普通の製品はつくらない」という雰囲気があって、操作性の高さのようなあたりまえのことよりも、通常だとあまりやらないような仕上げにこだわり、商品価値を追求した製品でした。そうやってあえて売れ筋をねらわないものにも挑戦していましたね。 

90年に僕が入社した時、どんな仕事をしていきたいのかを聞かれて、「すぐに捨てられてしまうようなものはつくりたくない」と話していたことをよく覚えているんですね。当時うっすらと感じていたのは、70年代までの製品のように、すべてがアルミでつくられていて、メッキなんかはありえないとされていた時代と比べると、90年代の初頭はどんどん製品がチープになってしまっていた。オーディオマニアとしては、本質的に価値のある製品を生み出せていけるのだろうかという気持ちがあったんです。それでも、造形やカラーリングにこだわったり、製品を光らせるなどの工夫をしたりしながら、当時のデザイナーたちはいろんなチャレンジをしていたと思うんですが、時々リサイクルショップに行くと、その頃の製品が悲しげに並んでいたりするわけじゃないですか。事業である以上、歴史に残るよりも売れる製品をつくる必要があるのは当然なんですが、当時は売れなかったけれど、デザインとしては挑戦的だった製品も、こうやってブランドの歴史のなかにちゃんと残っているんですよね。

Kenji Kimura

高く評価された製品だけをまとめたものや、デザインミュージアムのようにキュレーションされたものではなく、すべての製品をアーカイブするからこそ見えてくる歴史がありますし、語れるものがあるのかもしれないですね。 

木村(賢) そうですね。こうして過去を振り返ってみると、お弁当を注文して夜遅くまでデザインしていた当時のことがありありと浮かぶんです。このアーカイブの写真からはそういった努力までは感じ取れないと思いますが、あの時に頑張ったことって、自分たちの中でちゃんと価値として残っていて、それはなかなか伝えられないですよね。なので、このアーカイブを見る人たちには、それぞれの製品がつくられた時代になにが起こっていたのか、そういったことについても考えてみてほしいですね。 

木村(英) 自分も当時はできるだけネジを使わずに製品を組み立てられないかなど、360度美しい製品のあり方を探していました。そのために、グループのエンジニアと議論を繰り返すこともありましたが、後輩からするとそんなことを聞かされてもしょうがないですよね(笑)。そこまでプロダクトデザインを突き詰めていた時代の工夫は、写真には収まっていないので。 

だからこそ、アーカイブとあわせて当時の話を聞く場をつくることも大事なのかもしれませんね。 

木村(賢) はじめて社内イベントでアーカイブを展示した時に、どんな反応があるのかなと思ったら、担当した製品に寄せられた反響や、学生時代に買ったオーディオの話など、それぞれが語りはじめたんですよね。確かに、こうやって過去に触れることで先輩の仕事の話を聞く機会になりますし、アーカイブがそのきっかけになるんじゃないかなと思います。 

過去を懐かしむのではなく、未来につなげていくために 

最後に、デジタルアーカイブ活動の今後についてお聞かせください。 

緑川 私は、目に見える製品デザインそのものだけでなく、その背景にある時代性や、どのような議論や考え方を経てそのデザインにたどり着いたのかというストーリーを伝えていくことも、同じくらい重要だと考えています。しかし現時点では、そうした情報をデジタルアーカイブに反映できる仕組みはまだ十分に整備されていません。私自身、この会社で活動できる時間には限りがありますが、将来的にはデジタルアーカイブの中にこうした情報を蓄積・共有できる仕組みも取り入れられ、デザイン資産を次世代へ継承していくための、より価値あるシステムへと発展していくことを期待しています。

木村(英) あくまでこの活動が目指すのはブランドの歴史をアーカイブとして残すことであり、今後さらに新しい製品が登録され、更新されていくことの方が大事だと思います。ただ過去を懐かしむためのものにするのではなく、今後どのように活用していくのかは、次の世代のデザイナーに委ねたいですね。ここまで歴代の製品の情報を揃えたアーカイブはこれまでになかったので、今後はグループ全体で活用できるような仕組みづくりにもトライしていきたいと思います。 

木村(賢) この取り組みを通じて、ブランドの今後につなげていくための活動が動き出す最初の場面に立ち会うことができたんじゃないかなと感じています。これは歴史を積み上げてきた会社ならではの取り組みだと思いますし、このアーカイブが触媒となり、さらに広がっていくことでより価値が生まれていくのではないかと。当時のことを知っている人はどんどん引退していってしまうので、今後はそういった方々にちゃんと話を聞く機会をつくっていきたいですね。 

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