当事者の声をデザインのプロセスに           グループの技術を困りごとのサポートにつなげるインクルーシブデザインへの挑戦

当事者の声をデザインのプロセスに           グループの技術を困りごとのサポートにつなげるインクルーシブデザインへの挑戦

近年JVCケンウッド・デザインでは、さまざまな困りごとを抱える当事者の声を製品開発に取り入れる、インクルーシブデザインのプロセスを実践するプロジェクトを推進しています。JVCケンウッドグループ が培ってきた通信・映像・音響の技術を応用しながら、新たな領域のデザインに挑戦する試行錯誤の過程について、社内でインクルーシブデザインに取り組む3人のメンバーが語り合いました。

グループが培ってきた技術力を社会のバリア解消のために

JVCケンウッド・デザイン内にてインクルーシブデザインに取り組み始めた経緯をお聞かせください。

浦 3年前に、学習障害の一種である「ディスレクシア*」を支援するアプリケーションの研究開発をはじめたのがきっかけです。最初は自分ひとりの活動としてスタートしたものでしたが、毎年社内で実施している「DESIGN MIRAI」の展示のタイミングでメンバーを増やし、正式にJVCケンウッド・デザインのプロジェクトとして推進することになりました。

社内展示会「DESIGN MIRAI 2025」を開催 | NEWS |

1年目はPoCを制作し、2年目からはディスレクシアの子どもたちが通う学習塾にご協力いただき、当事者の方を対象とするユーザーインタビューを実施しました。現在もアプリとして仕上げるための研究開発を推進しています。

*ディスレクシア……文字の読み書きに困難が生じる学習障害の一種



もともと浦さんが学習障害の支援に関心を持ったきっかけは何でしたか?

浦 自分の子どもがディスレクシアなので、以前から公共の支援についていろいろと調べていたんです。そのなかで、イヤホンなどの電子デバイスによる支援事例があることを知り、自分たちの会社にもできるのではないかと考えるようになりました。これまでJVCケンウッドグループは通信・映像・音響の3つの技術を活かした製品群を提供してきましたが、これらは「はなす・みる・きく」に関わるものであり、製品に使用されている技術を応用することで、認知系の困難を持つ方に向けた支援につなげることができるのでないかと。

たとえば、JVCケンウッドグループではイヤマフや耳栓が製品としてラインアップされていますが、近年ではノイズキャンセリングイヤホンが聴覚過敏の方の間で、騒音の緩和ツールとして利用されています。今後はこういった「ユーザーの困りごとの解消」という領域を、DXやAIを使ってさらに広げたいと思っており、現在研究開発中のアプリケーションにおいても、すでにグループの製品で使用されている音声認識技術を活用し、読み書きに関する子どもたちの困りごとを可視化するツールの制作を目指しています。


JVCケンウッド・デザインはこれまでユニバーサルデザインに力を入れて取り組んできました。鈴木さんと佐々木さんはこの取り組みに参加されてから、ユニバーサルデザインとの違いや、インクルーシブデザインの特徴としてどのようなことを感じながら活動していますか?


鈴木 ユニバーサルデザインは、できるだけ多くの人々が最初から使いやすい状態を目指して設計していく考え方だと思っています。一方でインクルーシブデザインは、困りごとを抱えている方を起点に、当事者の方と一緒に設計を進めていく考え方です。身体的な使いづらさだけではなく、置かれている状況や認知、気持ちといった要因も含めて考えていく文脈があることも、インクルーシブデザインの特徴としてよく語られます。そうしてプロセスを重ねていくことで、結果的にユニバーサルデザインにつながっていくこともあると感じています。

わたしは活動に参加して、さっそくユーザーテストとインタビューに同行しました。はじめはインクルーシブデザインについての知識がなかったので、浦さんにいろいろと教わりながら進めていくことが多かったのですが、学生の頃に、地方の街を歩きながら発見した課題について街の人にインタビューする実習を経験していたので、同じように「人」を基点とするプロジェクトにさっそく関わることができてとてもワクワクしています。

佐々木 私は、まだユーザーテストなどのプロセスには参加できていないんですが、発信活動に力を入れていくために、2025年の日本LD*学会でのブース出展を担当しました。昨年の「CEATEC 2025」にて発表した「カメラ付きAIイヤホン」のプロトタイプと、現在研究開発を進めている「学習特性簡易チェックアプリ(仮称)」の試作版を展示したところ、とてもいい反応をいただき、かなり多くの方から使い方についてのご質問がありました。

そういった声を聞けたことも印象的でしたが、教育関連の方とのお話を通して、困りごとを持つ子どもたちのサポートだけではなく、人手不足やベテランの不在など、教育現場にはさまざま課題があることを知れたのもよかったと思います。まだまだやれることはあるんだなと、モチベーションにつながる経験でした。

*LD……Learning Disorders(学習障害)

一般社団法人 ​日本LD学会 第34回大会 出展報告 | NEWS |

子どもの読み書きの困りごとを発見し、支援につなげる

さきほどお話のあった、「カメラ付きAIイヤホン」について教えてください。

浦 昨年のCEATEC 2025にてプロトタイプとして発表したものです。業務用や視覚障害者の支援機器として開発していたのですが、教育DXの領域での使用をJVCケンウッド・デザインから提案させてもらいました。イヤホンのように耳にかけると教科書の読み上げができるので、読み書き困難な児童の支援に役立つのではないかと思っています。学習用のタブレットや端末と接続することができれば、さまざまな発展性も考えられます。「はなす・みる・きく」が一体化した、実にJVCケンウッドらしい製品なので、ぜひインクルーシブデザインの手法で社会実装したいですね。

カメラ付きAIイヤホン | 株式会社JVCケンウッド

同じく、現在研究開発を行っているアプリについてもお聞かせください。


鈴木 子どもの読み書きの得意度を可視化できるアプリケーションで、その子どもに支援が必要なのかどうかを、先生や保護者が考えるきっかけをつくることを目指しています。学習障害などの診断においては、実際に病院で検査を受けるまでに半年ほどかかってしまう現状があるため、協力いただいている先生方に相談しながら、現在アナログで実施されているテストや結果をデジタルに置き換える方法を検討しています。

浦 大学でディスレクシアについて専門に研究されている方と、もともと大学病院でリハビリ関連の仕事をされていた方で、現在は起業されている先生、さらにディスクレシア専門の学習塾の先生にも協力をお願いしています。医療的な診断とは異なる、実践的で高い精度のものを目指していますし、読み書きに苦手意識のある子どもたちがどれくらいの困りごとを抱えているのか、それぞれのレベルを可視化できるようにしたいと考えています。

学習障害は発見が難しく、重度の症状があったとしても、ただ勉強が苦手な子どもだと思われてしまうなど、保護者や学校が見落としてしまうことが非常に多いと言われています。このアプリを通して、読み書きの困難に気づく前の子供たちが支援を受けられるきっかけがつくれないだろうかと考えています。

研究開発中アプリのユーザーテストの様子

インクルーシブデザインのはじめの一歩を踏み出すために

2025年度のDESIGN MIRAIでは「みんなのインクルーシブデザイン」のリーフレットを配布しました。どのような経緯で制作されたのでしょうか?

鈴木 活動が3年目に入り、今後インクルーシブデザインの事例を増やしていくためには、JVCケンウッド・デザインの社内はもちろん、JVCケンウッドグループの中の認知度を上げていく必要があります。まずはインクルーシブデザインとはなにかを知ってもらうために、グループの社員が集まるDESIGN MIRAIに向けて、このリーフレットを制作しました。

「どんな人がいる?」という見出しからはじまる最初のページでは、学校、会社、公園、カフェなど、さまざまな場所で過ごす人々の姿を描いています。そこからそれぞれの吹き出しに注目すると、大きな音が苦手な人や、集中が続かない人など、一見すると困りごとを抱えているとはわからない人々がいることに気がつきます。こういった構成にすることで、リーフレットを手に取った人の中にも「自分もあてはまるかもしれない」と感じる方がいるのではないかと、そんな問いかけの意味も込めているんです。

佐々木 実際にご覧になった方から「実は私も同じなんです」といったお話をしていただくこともありましたね。リーフレットをきっかけに対話が生まれる場をつくることができたと思います。

「みんなのインクルーシブデザイン」リーフレット

鈴木 これから一緒に考えていきましょう、という気持ちで制作したので、このリーフレットがはじめの一歩となり、今後さまざまな部署の方とご一緒できればと思っています。また、冊子の最後に経済産業省が定義している経営戦略としてのインクルーシブデザインの可能性について触れているのもポイントだと思います。

浦 経産省九州経済産業局が公表している「経営戦略としてのインクルーシブデザイン-よい会社、強いビジネスへ-」をもとに作成しており、グループの社員には特にそこが響いたようですね。DESIGN MIRAIの来場者投票でも良い結果をもらうことができました。


「経営戦略としてのインクルーシブデザイン」 (METI/経済産業省)

最後に、今後も引き続きインクルーシブデザインの活動として取り組んで行きたいことをお聞かせください。

鈴木 グループ内の啓発に取り組みはじめてから、よりインクルーシブデザインの大切さを自分自身が実感できていると思います。DESIGN MIRAIをきっかけに社内の認知も広がってきているので、自分自身も学び続けながら、今後さらにワークショップを企画し、企画やエンジニアといったものづくりに関わるさまざまな職種の方々を巻き込んでいくことで、グループ内でのインクルーシブデザインの浸透をもう一歩進めていきたいですね。

佐々木 インクルーシブデザインのおもしろさは、プロセスの中で製品の別の使い方が発見されたり、そこから新しいアイデアやイノベーションが生まれたりする可能性があるところだと思います。ワークショップを通じて社内で働く人々の対話が増え、新しい製品やサービスを生み出す原動力や付加価値の向上につながることを期待しています。

浦 インクルーシブデザインをあたりまえに実践できるようになることで、概念自体が必要なくなっていくのが今後の理想だと思います。海外に行けば誰もがマイノリティの立場になるように、マジョリティとマイノリティの違いはその時の状況でしかなく、世界は決してふたつだけに分かれるということはありません。そういった考え方をいろんな人に知ってもらいたいと思いますし、そんな姿勢でものづくりに向き合えるように、グループ全体でインクルーシブなマインドを培っていきたいですね。

Profile

Kosuke Ura
  • Project Leader
Rika Sasaki
  • UX Design
  • UI Design
Ayane Suzuki
  • UX Design
  • UI Design

Join Us

JVCケンウッド・デザインでは、ともに働く仲間を募集しています。詳しくは採用情報をご覧ください。

Spark

Works